国内外から訪れる登山客に魅力を伝える登山ガイド「ミキティ」
日本山岳ガイド協会認定登山ガイドとして活躍し、「ミキティ」の愛称で親しまれている、大館市の大川美紀さん。世界中から訪れる登山客とともに年間200回以上も山に入り、山と自然、そして地域の魅力を伝え続けています。
登山の時間が失意の底から抜け出すきっかけに
大川さんが登山を始めたのは約13年前。当時の大川さんは、中学生の娘さんが重い病気を患ったことで、ひどく塞ぎ込んでいました。
自宅に引きこもるようになっていた大川さんの様子を見かねた友人に誘われ、渋々挑戦した登山。すっかり体力が落ちていた大川さんにとって、慣れない登山道はとても過酷なものでした。しかし、ブナ林の中を歩いている時、想像もしていなかった無の感覚を経験しました。
「当時の私は娘の病気のことで頭がいっぱいで、『もし再発したらどうしよう』『死んでしまうのでは』と、いつも不安だったんです。でも、山を登っている間は、とにかく登ることで精一杯で、心配事もどこかにいっていました。その感覚がとても久しぶりで。ふと『自分にはこの時間が必要だったんだ』と気が付いたんです」
それ以来、時間を作っては山に登るようになったという大川さん。初めのうちは現実逃避のために、手当たり次第。それが、いつしか山の魅力に惹かれ、「あの花や鳥に会いたい」「自分が見て感動したものを、誰かに見せたい」と思うようになっていったそうです。
高山に咲くかわいらしい花々に魅了されて
そんな大川さんに山の魅力を聞いてみると、「山でしか会えない、かわいらしい花に会えるのが本当に楽しみなんです」と笑顔を見せてくれました。「名前を覚えた花に、次の登山でまた会えて、でも翌月にはそこに違う花が咲いている。そうやって、次から次と移り変わっていく様子を見るのが好きなんです」
田代岳に咲く花で特に好きなのは、九合目の池塘に咲く「ミツガシワ」だといいます。ピンク色のつぼみを持ち、花が開くと白っぽくなる様子が、「とんでもなくかわいい」のだそうです。
地元の人たちの温かさに支えられた日々
約20年間旅行業に携わってきた大川さん。登山ガイドを始めたきっかけは、ガイド団体の人に誘われたことがきっかけです。
「登山ガイドの仕事には、旅行業で培った長年の経験が役立っていると思います。でも、私1人では何もできませんでした。山の先輩たちが、持っている知識や技術を惜しむことなく私に教えてくれました。大館の人たちって、びっくりするほど温かいんですよ。何かあってもアドバイスしてくれたり、励ましてくれたりするから、1人じゃないって思える。その温かさこそ、この地域の一番の魅力だと思います」
「人に寄り添えるガイド」を目指して
「お客さんの気持ちを汲んで、寄り添えるガイド」。それが大川さんの目指す姿です。『なんのために山に登りたいのか』『山で何を楽しみたいのか』『体力面はどうか』等、一人ひとりに寄り添い、細やかな気配りができるよう努力しています。
それでも、反省しない日はないと大川さんは言います。「例えば、高山植物についてもっといい説明ができたんじゃないかとか。そういう時は居ても立ってもいられなくて、家じゅうの図鑑を引っ張り出して調べちゃうんです。何十年も山に登っている人と比べると、知識量も少ないですし、まだまだこれからです。インバウンド対策もしていかなくちゃいけないし、もう全然時間が足りないですね。100点満点のガイドになれるのは一体いつになるのかな」。
お客さんにもっと満足してもらいたいと、日々努力を続ける大川さん。そのチャーミングな人柄と温かさが、一緒に山を歩く人びとの楽しさを倍増させてくれます。
ライター:丹波桃子