世界一美しい紅葉が見られる田代岳
「四季の国」日本の中でも、最も美しい紅葉が見られるといわれる北緯40度近辺に位置する田代岳。世界遺産・白神山地に属し、高山植物の生息地であることから、国内外から登山客が訪れています。
標高は1,178m。荒沢登山口から田代岳山頂まで片道約4km、時間にして往復4時間強の登山コースを、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドである「ミキティ」こと大川美紀さんのナビゲーションで進みます。
原生的な自然が残る、白神山地らしい山
ガイドのミキティいわく、田代岳は「最も白神らしさが残っている、登りごたえのある山」。白神山地に属する他の山々と比較しても、伐採や植栽などがほとんど行われていないため、ありのままの原生的な森を感じることができるのだそうです。
岩瀬川を流れる心地良い水音をBGMに登り進めると、さまざまな植物との出合いが待っています。
こちらは田代岳の中でも荒沢登山口付近でしか見ることができない「アケボノソウ」。花びらの斑点が夜明けの空に点々と浮かぶ星のように見えることから名付けられました。
他にも、ノコンギクやテングノコヅチなど、高山でしか見られない花々のかわいらしい姿に心が躍ります。
きめ細かい樹皮を持ち、侍の時代から刀の鞘に使われている「ホオノキ」や、口に含んで歯磨きやリフレッシュに活用していた「タムシバ」。山道で出合う植物にまつわる人びとの歴史と生活のエピソードに、想像が膨らみます。
(※田代岳は県立自然公園に指定されているため、現在は植物の採取は禁止されています。)
世代を超えてつながっていくブナのサイクル
白神山地といえばブナ林。大きく葉を広げて育つブナの森は薄暗く、神秘的な雰囲気を漂わせています。
ブナの大木の周りでは日光が遮られてしまうため、次世代の若芽は育つことができません。やがて寿命を迎えた大木が倒れると、その上にぽっかりと天空の窓ができて、初めてその場所に日光が当たるようになります。倒れて朽ちた幹の上に落ちたブナの種が、太陽の光を受けて新芽を出し、次の世代へとつながっていきます。
季節の移り変わりに沿うように、美しく色付き始めたブナの葉。鮮やかな黄色、燃えるような赤色を経て、最後は茶色くなって土に落ち、春にはまた新緑が芽吹きます。繰り返すブナのサイクルをぜひ見届けてほしいと、ガイドのミキティは話します。
「山を歩いていると、なんとなく『好きだなあ』と感じるブナの木がきっと見つかるはずです。見つけたら、自分の中で名前を付けて、ぜひその木にまた会いに来てくださいね」
「神の田」と称される池塘と、山頂からの絶景
岩瀬川の水音は登頂に近づくにつれて遠ざかり、静寂の中で葉っぱが揺れる音や動物の鳴き声がよく聞こえるようになります。
約120もの池塘がポコポコと点在する、9合目の高層湿原に辿り着きました。古くから水田信仰の山とされてきた田代岳において、池塘は「神の田」とも称されています。田代地域の人びとは、池塘の水位や周辺の様子を見て、その年の稲の出来を占います。
9合目からは、通称「津軽富士」と呼ばれる岩木山をはじめ、八甲田山や十和田湖エリアを望むことが出来ます。この美しい眺めが注目され、登山雑誌『山と渓谷』の全国百名山にも選ばれました。
とうとう辿り着いた山頂。長い登山の疲れが吹っ飛ぶほどの絶景を堪能します。
天気のいい日は男鹿半島や寒風山も見ることができます。
帰りに立ち寄った圧巻の「五色の滝」。時間帯によって水面に日光が反射し、とても美しい虹がかかることも。
出典:ミキティのXより
大自然の生命力を肌で感じる田代岳登山
登山初心者でも比較的登りやすく、観光客にも人気の高い田代岳。圧巻の紅葉が野山を彩る秋だけでなく、四季それぞれの美しさを見せてくれます。登山ガイドに森林のサイクルや山の歴史の話を聞きながら、大自然の持つ生命力を肌で感じてみませんか。
ライター:丹波桃子